2016年04月12日

NHKドラマ『精霊の守り人』ファーストシーズン総評

 今、(個人的に)NHKが熱い!
 真田丸人気は言うまでもないことですが、1月にBSで放送されたライブ型謎解き番組『四角館の密室殺人事件』や、その直後に放送された短編ドラマ作品『江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎』など、個人的に「NHKの本気を見せられた!」とうなる作品が多かったので注目していたのですが、今回もやってくれました。
 綾瀬はるか主演、上橋菜穂子原作の大河ファンタジー『精霊の守り人』です。海外ドラマでは常に一定の供給量を誇りながら、日本では全くと言っていいほど作られてこなかったファンタジー作品に、公共放送がそのノウハウと潤沢な資金をもって殴り込みという気概を見せてくれました。
 ファーストシーズン全4話は既に終わりましたが、原作未読ならぶっちゃけ見なくても公式サイトの情報をさえおさえればセカンドシーズンを楽しめると思うので、今回はセカンドシーズンが見たくなるような『精霊の守り人』のすごいところをまとめておきます。

 1.綾瀬はるかがすごい
 まずすごいのは主演の綾瀬はるか。強さと美しさを兼ね備えた女用心棒バルサを見事に演じています。
 バルサを語る上で欠かせないのはその槍術です。綾瀬はるかはこのアクションをなんと生身でこなします。これは実際に予告編の動画とかで見てもらった方がわかりやすいのですが、普通の女優の動きではありません。
 やはり大河ドラマ『八重の桜』での経験が生きたか……と言いたいところですが、八重はもっぱら銃が専門だったので、アクションはあまりなかった印象があります。それにしても綾瀬はるか、銃を撃って槍を振るって、一体何になる気でしょうか。
 そのアクションについていく方も大変です。ファーストシーズンで一番剣を交えたのは新ヨゴ国の狩人ジン役の松田悟志です。元仮面ライダーとあって?剣さばきはお見事。しかし、若手でライダーを演じてたのはもう10年以上前のはずなんですが、血気盛んな若者という印象がまだ抜けないのも不思議な感じですね。
 もしかしたら綾瀬はるか以上にすごいかもしれないのが、バルサの少女期を演じた清原果耶です。綾瀬はるか顔負けの槍さばきを見せ、「ああ、これは昔のバルサで間違いない」と視聴者を納得させてしまいました。
 セカンドシーズンでは仇敵ログサム役に中村獅童が登場するようです。中村獅童と言えば『レッドクリフ』でアクションシーンを演じていた記憶がありますし、綾瀬はるかとの対決も迫力のあるものになるのではないかと期待しています。

 2.他の役者もすごい
 当然ながらすごいのはアクションをする役者だけではありません。
 映像やサイトの画像で見て、呪術師トロガイ役の高島礼子の変貌ぶりに驚いた人も少なくないでしょう。大河ドラマでは女優がなかなか老けてくれないという声すら聞こえる日本俳優界の現状にあって、老けるどころの話ではなくなっています。あのビジュアルで水の精霊がどうとか、ナユグがどうとか言われた時の説得力は半端ではありません。
 大河ドラマ出演経験のある俳優が目立つ印象もあります。単に偶然なのか、新しいことをやるにあたってNHKと長期の仕事したことのある大河経験者を優先的に起用したのかはわかりませんが、大河ファンには別々のドラマに出ていた役者が共演する姿を見れるのも嬉しいポイントです。
 そして、役者は人間の屑をやる時が一番輝いているのでしょうか。言うまでもなく帝役の藤原竜也です。最初は普通の為政者といった感じでしたが、回を追うごとに化けの皮が剥がれ最後にはいつもの藤原竜也でした。でも視聴者はそれを待っていたんです。第4話では二の妃に子供を産ませようとする一方でチャグムを皇太子として王宮に連れ戻しました。一体何を企んでいるのかはわかりませんが、クズっぷりに拍車がかかることは間違いなさそうです。

 3.森のロケーションがすごい
 このドラマのすごいところは、ロケーションの壮大さ、綺麗さです。第3話の草原など、本当に日本で撮影したのか疑問なくらいの景色が続きます。
 森のロケーションの豊富さも圧巻です。同じような森でも、新ヨゴ国周辺やなどで、地面のでこぼこ具合や生えている木の種類などがそれぞれ異なり、違う場所にいることがはっきりとわかります。バルサたちが旅をしていることが、いろいろな国や地域の特異な建造物が無くても示せているのです。

 今後の課題
 一方で、初の試みということもあって今後の課題もあります。
 1つは原作との兼ね合いでしょうか。私は原作を読んだことがないので一切気にならないのですが、原作にこだわりがある人からは「このシーンがない」だとか「このキャラクターが違う」といった批判も出ています。もっとも、これは原作のある小説を映像にしようとすれば絶対に通る道なので、制作側も視聴者もうまい具合に落としどころを見つけていく必要があるのでしょう。
 もう1つはCGに違和感があるということです。CGは確かにきれいなのですが、元々画面があまり明るくないところに急に明るい映像が来るので、その2つが合わさると違和感があるのでしょう。ニチアサ特撮にありがちな、チープなCGの違和感とはまた違った問題点です。CGを張り切り過ぎたとも言えるでしょうか。

 しかしともかく、原作未読の私としては楽しく見ることが出来た作品でしたので、セカンドシーズンも楽しみに待ちたいと思います……しかし来年1月かぁ。
 NHKは視聴率を気にしなくてもよい立場なので、その強みを生かして壮大な作品作りに挑戦していってほしいですね。それが文化を牽引することにもつながるでしょうし、公共放送としての役割でもあるでしょう。
posted by 新橋九段 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ・映画評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月26日

『四角館の密室殺人事件』感想戦 映像叙述という可能性

 少々遅いですが、先週の土曜日から日曜日にかけて放送されたNHKBSプレミアムのドラマ『四角館の密室殺人事件』の感想戦と参ります。
 今回は綾辻行人の原作ということで、LIVEでの参加者が過去最高を記録したようです。ぜひまた次回もやって欲しいですね。

 以下からはドラマのネタバレが多く含まれます。

 プレミアムメンバー試験というスクリーニング
 本ブログでもヒント集を作ったプレミアムメンバー試験ですが、これはなかなかいいアイデアだったのではないかと思います。
 TVで視聴者が投稿した推理やコメントを紹介するというシステムなのですが、大勢視聴者がいれば変なのもいるわけで、特にネット上では敵視すらされているNHKですから、嫌がらせ目的の不届き物が出てこないとも限りません。そうではなくても、大量にコメントを投稿されれば運営側がパンクすることもあるでしょう。
 そこで、事前に問題を解かせ、正解者のみ投稿できるようにするという仕組みになったのでしょう。
 Twitterやブログなのでこの問題が話題になれば、勝手に番宣にもなり、番組ページに飛べば事前に番組の趣旨や楽しみ方も目にすることになるという、よく考えられたシステムです。
 問題には全周球、つまり360度見渡すことのできる特殊な画像を使用し、これはドラマ本編の謎解きにも活用されました。この前友人が投稿した動画でも見たんですが、映像にも利用できる仕組みなようで、360度型の映画も作れるのではないかとすら言われています。
 新しい技術を積極的に利用できるのも、公共放送の強みかもしれません。

 映像叙述という可能性
 第1夜終了時、全ての視聴者が呆然としたことでしょう。私みたいによそ見してなければですが。
 密室だと思っていた書斎の天井は存在せず、その代わりスタジオの高い天井と大きな照明が見えていたのですから当然です。実は書斎は四角館とスタジオに2つあったのです。
 言われてみれば、階段は(1度だけあったらしい例外を除き)ドラマでは写っていませんでした。青が運んでいた箱が1階と書斎の前では違っていたり、早乙女が館から探してきた箱を書斎前でADに渡すとき何故かわざわざ風呂敷に包んでいたりと違和感はありましたが、気が付きませんでした。
 第2夜が始まるまでに必死に推理したのに、それが全て吹き飛んだ視聴者も多かったでしょう。わざとらしく「事件当時館にいた人間」をまとめて見せたのもミスリードに一貫かもしれません。
 さらに、事件解決につながる重要なヒント―豊原のネックレスについているリングと小野寺の指輪の共通点―も映像で示されただけで説明はありませんでした。人間の感覚受容には限界があり、視覚は注意が向いたものしか見えないという部分をうまく使っています。
 原作の綾辻は「ドラマならドラマならではのトリックを目指したかった」と、ライブストリーミングで語っていましたし、それは成功を収めたといっていいのではないでしょうか。

 不正解を示すことの難しさ
 今回のドラマで難しかったのは、正解の理由を示すことよりも不正解の理由をはっきりさせることの方かもしれません。
 第2問、違和感のある写真を2つ選ぶという問題で、私は「1人で飲んでいたはずなのにテーブルに2つマグカップが置いてある」ことを理由にテーブルの写真を選んだわけですが、これは不正解でした。確かに、2人暮らしの家ならカップが2つ出っ放しなのは一応あり得ることですし、なにより2つ確実におかしい写真があるのでこちらが正解になりようがないといわれればその通りなのですが、釈然としない気もするのは事実です。
 参加型の推理ものの場合、正解を納得させるのと同じかそれ以上に、正解以外の答えがあり得ないことを納得させるのが難しいものです。特に相手が熱心な回答者であればなおさらです。
 また第2夜で、殺されたのがどちらかという問題もありましたが、あれも答えにたどり着くのは難しいでしょう。状況から考えれば、確かに安野が先と言えるのでしょうが、それまでのヒントでは確実な正解を導くのは大変です。

 ともあれ、本作には綾辻の実力と視聴者参加型の推理番組の面白さを再確認させるだけのものがあったのは確かです。特に、映像叙述を見せただけでなく、前作の原作というわけでもないのに、前作の登場人物をうまく話に絡めて物語を作った綾辻行人の技量には脱帽します。
posted by 新橋九段 at 19:51| Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ・映画評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月15日

ドラマ版『掟上今日子の備忘録』総評

 というわけで、実写ドラマ版『掟上今日子の備忘録』が最終回を迎えたので、軽く感想をまとめておきたいと思います。
 とは言っても、小説版を読んでない以上、語れることは少ないのですが。

 本作は、少なくともドラマとしては成功の部類に入るのではないかと思っています。単純に面白かったですし、実写ドラマにありがちな再現の甘さやオリジナルキャラクターの違和感もほとんどなかったです。視聴率は知りませんが、大河ドラマ『平清盛』以降そのドラマの出来と視聴率は関係がない、むしろいいドラマこそ視聴率が下がりかねないとすら思っているので気にする必要もないでしょう。
 結局のところ本作は、実写ドラマが成功するかどうかは役者と脚本にかかっているという当たり前の事実を確認させてくれました。そりゃ、メインキャストが新垣結衣と岡田将生では演技面で死ぬことはまずないでしょう。ジャニーズ枠はいざ知らず、新人枠であろう内田理央ですら仮面ライダーでの1年間の経験を経ての参加なので、安定感のある配役と言えるでしょう。
 脚本家の他の仕事を知りませんが、原作への尊敬の感じられる話の運び方で好感が持てました。須永作品を使ったセリフの遊びとかね。今日子さんの寝室の文字という、原作でも回収されていない謎は本作のような短期間の実写化作品では鬼門となる要素も綺麗に畳んでいきました。あれくらいスマートだとセカンドシーズンは期待できないかもしれませんが。
 原作者である西尾維新もそれなりに脚本に噛んでいるようですが、原作者と脚本家がうまくいかない作品の例も枚挙にいとまがないだけに、本作の成功を支えた要素なのでしょう。西尾維新は自身の作品のコミカライズにかなり積極的な人らしく、アニメ版『物語シリーズ』の副音声や予告編の台本を書いていたり、一度は阿良々木暦役の神谷浩史があとがたりの中で「原作者がこの収録を聞きに来ている」と言っていたこともありました。他にも、読んでいないので詳しくは知らないのですが漫画版『零崎双識の人間試験』でもオリジナルストーリーを書いているようです。

 こういう実写化の成功例があるからこそ、何も考えていないような駄作も量産されるわけでそこは悩ましいところですが、逆に言えば昨今の実写化ブームが無ければこのドラマも見られなかったかもしれないわけで……。
 ところで、年明けからの日テレのドラマは『臨床犯罪学者火村英生の推理』とかいうのがあるらしいですね。とんだ地雷かと思いきや原作は有栖川有栖の小説だそうで。犯罪学ブログの運営者としては是非押さえておきたいのですが、大河ドラマ『真田丸』とだだ被りなんですよね。どうしようかな……。
posted by 新橋九段 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ・映画評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする