2016年12月25日

【読書狂の冒険#047】 加納正顕/F.E.A.R『ダブルクロス The 3rd Edition リプレイコスモスB この宙に誓って』富士見書房

 本年最後の書評はリプレイコスモス。このテーマで取り上げたリプレイの中で唯一全3巻全てを読んだシリーズだ。たまたまブックオフに全部そろってたんですよね。

 本作はスタンダードなリプレイを目指すことをテーマとした作品。宇宙からやってきたフェイドアウトと神戸第三支部のメンバーとの交流と成長を描く……といったあらすじだけを書けば確かにスタンダードっぽい作品である。しかし登場人物のうち、支部長を担う人物が「支部長ロボ」という名のレネゲイドビーイングであるところかちょっとずつ雲行きが怪しくなっていく。
 とはいえ、登場人物の残り2人が高校生であるためもあってストーリーとしてやはり王道を進んでいる。第1巻ではフェイドとの出会いと親友を守るPC1の信念を、第2巻ではPC2の恋愛模様とそれを見守るレネゲイドビーイングたちの困惑をそれぞれ取り上げている。友情や愛情といった概念を理解していないフェイドを始めとする地球外のレネゲイドビーイングたちと人間とのやりとりというのは、人間ではないものとの交流としては定番中の定番だろう。

 そうした極めてスタンダードなシナリオの中で異彩を放つのは、やはり“支部長ロボ”ユピテルの存在感だろう。スタンダードって言っているのになぜ支部長がロボットなのだろうか。
 しかしシナリオが進むにつれて、支部長ロボの存在意義が明らかになっていく。人間の感情を理解していないフェイドと、その人間である高校生PCたちの間を取り持ち、かつ彼らを一緒に導ける存在は、ロボットでありながら人間の感情を尊重し達観したような姿勢も見せるユピテルしかありえない。PC間の人間関係をスムーズに進めるにはうってつけの存在だったというわけだ。
 キャラクタークリエイトはTRPGにとって特に重要なステップだ。戦いはセッションが始まる前に既に始まっているというわけだ。1つの卓に4人から5人いるPCたちのなかで目立つためにはある程度突拍子もない設定をつける必要がある。例えばロボットとかだ。
 しかしあまりにも突拍子もなさすぎると様々な面でシナリオ上の困難を呼び込むことになる。例えばフェイドの「人間の感情を理解していない」というのも1つの困難だ。いつもならすんなりいくやり取りがややこしいことになる危険性をはらんでいる設定であるからだ。しかしまあこれくらいならまだいい方というのが、いろいろな卓を野良で経験した私の率直な感想でもある。
 その点、一見奇抜な設定ながらシナリオを円滑に回す役割を担うキャラクターを作り上げたPLである矢野俊作は見事だった。流石に作者ご本人は伊達ではないということか。
 ロールプレイングは役割を演じるという意味だ。ただのなりきりではなくて、役割を演じるのだというのがTRPG初心者によく言われるアドバイスだ。支部長だから周囲の人間関係をきちんと円滑に回すというのは、まさに役割を演じることを全うしていると言えるだろう。

 そういう意味では、PLとしてのスタンダードも志向したのが本作だと言えるだろう。型なくして型破りなし、王道なくして邪道なし。「私の狂気は君たちの神が保障してくれる」的なやつである。
 様々なTRPGシステム、リプレイ動画が乱立する中でもう1度立ち返りたい基本である。

 さて、今まで1年以上定期的にやってきた連載だったが、来年から不定期更新にすることにした。知っての通り?小説を書き始めたので時間的なリソースの分配を考え直す必要が出てきたという理由と、やっぱり4冊から5冊1つのテーマで選んでくるのが大変という理由がある。そんなに系統立てた読書経験はしていないのだ。それに、定期的に更新しようとすると結局記事1つのクオリティが落ちてしまうという問題もある。
 これからは書評を書きたい本があったら書くというスタイルにしていくので、また機会があれば読んでいただければと思う。
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2016年12月18日

【読書狂の冒険#046】中村やにお/F.E.A.R『ダブルクロス The 3rd Edition リプレイメビウス1 キミだけが望むすべてだから』ストリエ

 リプレイの3つ目は、メビウスから。無限に円環が続くメビウスの名の通り、主人公たちがループから抜け出すことを目的とする、少し変わった物語だ。ちなみに、前回紹介した『春日恭二の事件簿』に登場するPCの1人墓守清正が初登場したリプレイでもある。
 そして、ここだけ出版社の表記富士見書房ではなくストリエなる聞きなれない名前になっているのだが、これにも理由がある。ストリエというのは実は出版社ではなく、イラストや吹き出しを使ってストーリーを作ることのできる投稿サイトのこと。ここにドラゴンブックの公式チャンネルがあり、メビウスの第1話が配信されているというわけだ。
 ちなみに、別の投稿サイトであるカクヨムではメビウス最終話直後の墓守清正とネズミのストーリー『Virtual Light Incognito』、さらにサプリメント『レネゲイドウォー』にちなんだ彼らのストーリー『The Show Must Go On』がPLである田中天氏によって公開されている。カクヨムには他にも公式のレーベルが公開している作品が多くあるようだし、作品のプロモーションの仕方もちょっとずつ変わっているのかもしれない。
 というわけで、今回は1冊ではなく1話に対する書評ということになる。

 本作のテーマの1つが、さっきも書いたように「ループ」だ。第1話では時間がループすることになる。これはもはやループもののお約束だが、キャラクターによってループしている回数にばらつきがあるのが、1つ面白い展開を呼ぶことになる。PC1である緋蜂紅はループのことを知らないままにシナリオに突入する。PC3である墓守清正やPC4である篠月秋雨はループを知っている。そしてPC2鳩宮アンゼリカは知っていることを隠している……といったようにだ。無論この違いはNPCにもあり、それがストーリーに深みを与えていくことになる。
 そしてループなのだから、当然周回する。1周目で出来なかったことを2周目にするのか、わかってて同じことを2周目にするのかでPCのキャラクター性がはっきりと見えてくるのも面白い。ちなみに紅は「わかってて同じことをする」タイプのようだ。そっちのほうが主人公している感じは強いだろう。

 そしてもう1つのテーマが「秘密」だ。ここに登場するキャラクターは多かれ少なかれ秘密を抱えてシナリオに参加している。今回は1話しかなく、続きは見られないのですべてが明らかになるわけではないが、それでもそこそこの秘密が明かされている。続きを読みたくさせるという意味では、1話でまずはスッキリ終わる……といったことのない本作をプロモーションに使ったのは正解だったのかもしれない。
 それをリプレイを見て思うのが、やはりPLそのもののレベルの高さだ。秘密を抱えた上にループするという複雑なシナリオを破綻なくまわすには、GMだけでなくPLの協力も必須である。シナリオの意図を十分に把握し、適度に引っ掻き回しながら演じることができるのは、流石だろう。寄せ集めの野良卓で同じことをやろうとしても、中々こうはいかないだろう。そもそも顔見知りではない人々による卓では意図を共有するのも難しいが。
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2016年12月11日

【読書狂の冒険#045】丹藤武敏/F.E.A.R『ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ 春日恭二の事件簿』富士見書房

 今回はダブルクロスリプレイの中でも最新の1冊。主人公が敵組織FHの代表的なエージェント春日恭二であることから話題になった。
 本書の話をする前に、春日恭二について軽く触れておこう。前回の記事で、ジャームによる脅威から社会を守る組織であるUGNに触れた。そのUGNの対立組織であり、オーヴァードの力を自身の欲望のために使うことを志向する組織がFHである。そして春日恭二はこの組織に属する人間である。
 春日恭二がDXプレイヤーに人気である理由の1つが、その三下っぷり、中ボスっぷりである。第3版では、まず基本ルルブ1のサンプルシナリオで覚醒したばかりのPC1の当て馬がごとき役割を与えられるところから始まる、まさに「噛ませ犬」っぽいキャラの典型である。そんな彼がリプレイで主役を張るというのだから、界隈に走った衝撃と笑撃は相当なものだった。

 しかも、その悪役が第1話のスタートでラーメン屋のバイトをやっているのだ。本書の初めに来る扉絵には、普段のルルブではいかめしく悪い笑顔をたたえているオッサンが、完璧な接客スマイルでラーメンを配膳している姿がカラーで描かれている。これで笑うなというのは無理だろう。
 しかしそれにはきちんとした理由があるのだ。それはネタバレになるので秘しておくが、第3版から入った人よりも、第1版の初期の春日恭二、つまり彼が敏腕エージェントであったころから知っている人へ向けたサービスの意味合いもあるのだろう。
 第2話ではさらに混迷度合いが増していく。PCである春日恭二が、他のPCに正体を明かせないという謎の制約のせいで仮面をつけて誤魔化す羽目になるのだが、全然誤魔化せていない上になぜかころっと騙されるPCというお約束の展開で進んでいく。さらにジャームに攻撃されたものが全員春日恭二に変化するという、結末が全く予期できない展開を見せる。結末は「卓ごとに違った姿で同一時間軸に現れる公式NPC」という、TRPGのメタな問題点に対する回答となっていて、見事というほかないだろう。

 さて、ここまでの記述でわかるように、春日恭二というキャラクターはPLたちに愛され、親しまれてきた。それは単にコメディーリリーフとしての優秀さや、シナリオへの使いやすさだけが原因ではない……はずだ。少なくとも本書では、その春日恭二の魅力の新たな側面が見て取れる。
 1つは、悪役の矜持・信念を持っている点だろう。第1話でラーメン屋の息子に語る、彼なりの正義感・善悪観は彼を曲がりなりにも見てきた読者、様々な正義の味方、悪役を演じてきたPLたちに向けて語られたものでもあるのかもしれない。ともかく、何らかの信念を持って動く人間は、それが善であれ悪であれカッコよく見えるのだ。
 TRPGのセッションは、多人数で行われる。それ故か、話の展開は突拍子のない方向へ行くよりはベタな方向へ行くことが多いように思う。突拍子もないのはそれはそれで面白いのだろうか、自分1人でやるのではないことを考えると、理解されやすく一部のPLを置いていく危険性の少ない王道の展開がやはり好ましいのだろう。そうなると、TRPGセッションの巧拙は、ベタな展開をどれだけ熱く、ケレン味たっぷりに演じられるかにもかかってくる。この辺もそつなくこなしているのが、春日恭二というPCだ。それも人気の理由だろう。

 春日恭二は「憎めない悪役」の典型的な成功例の1つであり、本作でもそれは全うされている。彼の本作における行いを正義と表現することは可能だろうが、展開上は「ケジメをつけた」とか「エゴの発露」と表現するほうが正確であるだろう。まあ、たまに正しいことをしてしまうというのも、憎めない悪役の1要素であるから、正義と表現しても問題はないだろうが。
 ということを考えると、悪玉にせよ善玉にせよ、魅力的なキャラクターというのは彼らの信念が先にあるのであり、正義とか悪というラベルは後からついてくるものだろいうこともできるのかもしれない。
posted by 新橋九段 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書狂の冒険 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする