2016年12月11日

【読書狂の冒険#045】丹藤武敏/F.E.A.R『ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ 春日恭二の事件簿』富士見書房

 今回はダブルクロスリプレイの中でも最新の1冊。主人公が敵組織FHの代表的なエージェント春日恭二であることから話題になった。
 本書の話をする前に、春日恭二について軽く触れておこう。前回の記事で、ジャームによる脅威から社会を守る組織であるUGNに触れた。そのUGNの対立組織であり、オーヴァードの力を自身の欲望のために使うことを志向する組織がFHである。そして春日恭二はこの組織に属する人間である。
 春日恭二がDXプレイヤーに人気である理由の1つが、その三下っぷり、中ボスっぷりである。第3版では、まず基本ルルブ1のサンプルシナリオで覚醒したばかりのPC1の当て馬がごとき役割を与えられるところから始まる、まさに「噛ませ犬」っぽいキャラの典型である。そんな彼がリプレイで主役を張るというのだから、界隈に走った衝撃と笑撃は相当なものだった。

 しかも、その悪役が第1話のスタートでラーメン屋のバイトをやっているのだ。本書の初めに来る扉絵には、普段のルルブではいかめしく悪い笑顔をたたえているオッサンが、完璧な接客スマイルでラーメンを配膳している姿がカラーで描かれている。これで笑うなというのは無理だろう。
 しかしそれにはきちんとした理由があるのだ。それはネタバレになるので秘しておくが、第3版から入った人よりも、第1版の初期の春日恭二、つまり彼が敏腕エージェントであったころから知っている人へ向けたサービスの意味合いもあるのだろう。
 第2話ではさらに混迷度合いが増していく。PCである春日恭二が、他のPCに正体を明かせないという謎の制約のせいで仮面をつけて誤魔化す羽目になるのだが、全然誤魔化せていない上になぜかころっと騙されるPCというお約束の展開で進んでいく。さらにジャームに攻撃されたものが全員春日恭二に変化するという、結末が全く予期できない展開を見せる。結末は「卓ごとに違った姿で同一時間軸に現れる公式NPC」という、TRPGのメタな問題点に対する回答となっていて、見事というほかないだろう。

 さて、ここまでの記述でわかるように、春日恭二というキャラクターはPLたちに愛され、親しまれてきた。それは単にコメディーリリーフとしての優秀さや、シナリオへの使いやすさだけが原因ではない……はずだ。少なくとも本書では、その春日恭二の魅力の新たな側面が見て取れる。
 1つは、悪役の矜持・信念を持っている点だろう。第1話でラーメン屋の息子に語る、彼なりの正義感・善悪観は彼を曲がりなりにも見てきた読者、様々な正義の味方、悪役を演じてきたPLたちに向けて語られたものでもあるのかもしれない。ともかく、何らかの信念を持って動く人間は、それが善であれ悪であれカッコよく見えるのだ。
 TRPGのセッションは、多人数で行われる。それ故か、話の展開は突拍子のない方向へ行くよりはベタな方向へ行くことが多いように思う。突拍子もないのはそれはそれで面白いのだろうか、自分1人でやるのではないことを考えると、理解されやすく一部のPLを置いていく危険性の少ない王道の展開がやはり好ましいのだろう。そうなると、TRPGセッションの巧拙は、ベタな展開をどれだけ熱く、ケレン味たっぷりに演じられるかにもかかってくる。この辺もそつなくこなしているのが、春日恭二というPCだ。それも人気の理由だろう。

 春日恭二は「憎めない悪役」の典型的な成功例の1つであり、本作でもそれは全うされている。彼の本作における行いを正義と表現することは可能だろうが、展開上は「ケジメをつけた」とか「エゴの発露」と表現するほうが正確であるだろう。まあ、たまに正しいことをしてしまうというのも、憎めない悪役の1要素であるから、正義と表現しても問題はないだろうが。
 ということを考えると、悪玉にせよ善玉にせよ、魅力的なキャラクターというのは彼らの信念が先にあるのであり、正義とか悪というラベルは後からついてくるものだろいうこともできるのかもしれない。
posted by 新橋九段 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書狂の冒険 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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