2015年04月29日

「久遠寺産院の怪・私の赤ちゃんはどこへ?」月刊マー13年7月号より

 「久遠寺産院の怪・私の赤ちゃんはどこへ?」月刊マー13年7月号より
 「私の赤ちゃんがいないんです……生まれたはずの赤ちゃんが!」
 編集部に悲痛なメールが届いたのはあるじとじととした雨の日のことだった。本紙記者は早速メールに書かれていたことの真相を確かめるために、送信者である夫婦の元へ向かった。
 メールをくれたのは東京某所に棲む新婚夫婦だ。早速話を聞かせてくれたが、奇妙な点があった。
 彼らによれば、夫婦は5月ごろ都内のK産院で赤ん坊を出産した。しかし悲劇的にも、出産は死産に終わってしまったという。ここまでは夫婦の証言に争いはない。
 しかしここから食い違う。妻が話すことには、出産時には確かに赤ん坊の産声を聞いたという。しかも、出産後しばらくは赤ん坊と並んで寝かされており、はっきりとその姿を見たという。
 夫が話すには、赤ん坊は最初から死産と伝えられたという。なお、夫は出張で東京を離れており、K産院に到着したのは出産から3日後のことであったが、その時初めて出産の顛末を聞かされたという。
 これは一体どういうことだろうか。
 妻は本紙記者に、是非とも赤ん坊の居所を掴んでほしいと藁にもすがる様子だった。一方の夫は、妻の記憶は死産のショックで書き変わってしまったのではないか、本紙記者に話して気が済むならそうさせてやりたかったと述べた。
 夫婦の話が矛盾なく繋がる唯一の可能性は、K産院の医師が一旦取り上げた赤ん坊を何らかの過失で死なせてしまい、誤魔化そうと決め込んだというパターンである。
 しかし妻には一度赤ん坊を見せている。そのようなことが可能なのだろうか?
 本紙ではお馴染みの、心理学者S氏によれば、人間の記憶というのは非常に脆く、改変が容易なのだという。例えばアメリカでは、催眠術師の処置によりありもしない虐待の記憶を思い出した事例が相次いだということがある。しかし改変にも時間がかかり、数日で思い通りの記憶へ変質させることは不可能だろうとのことだった。
 産声をあげた赤ん坊はどこへ行ったのだろうか。それともこの赤ん坊は死して生まれ、母親にしか聴こえない産声をあげたのだろか。

 「続報・K産院の奇怪な噂 20か月妊娠する妊婦」月刊マー13年8月号より
 先月K産院で消失したという赤子の話を本紙は報じた。本紙記者がその後も取材を続けたところ、K産院にまつわる奇妙な噂をいくつか耳にした。
 まず、K産院を経営する一族は元々四国の出身であったが、憑き物筋と呼ばれる、魑魅魍魎の類を使役して人々を呪う能力のある一族だという噂があるのだ。
 憑き物筋というのは、その一族ごとに使役する妖怪が決まっている。K産院の一族の場合は、なんと水子の霊を使役するという。
 子供を産む産院を経営する一族が、生まれてこなかった子供の霊を使役するというのは、何とも気味の悪い一致である。
 また、現在のK産院の院長には娘が2人いるが、妹の方も奇妙な状態にあるという。
 なんでも、子を身ごもって早20か月になるのに、一向に生れる兆候すらないというのだ。近隣住民の噂によれば、彼女の腹は異常なほどに腫れ上がり、少しつついたら爆ぜるのではないかというほどになっているという。
 いったいなぜ、彼女の体はこのような状態になってしまったのだろうか。
 噂はこのように続く。彼女の夫が姿をくらまし、どこかに隠れて彼女を呪い復讐しているのだ、と。
 噂によれば、彼女の夫は彼女の妊娠が発覚したのと同時に行方不明になっているらしい。この夫婦は元来不仲で、妻はK産院に勤める他の医師と関係があったとすら言われている。
 妻の仕打ちに耐え兼ねて家を出て、彼女へ復讐を行っているというのは実に理にかなった説明である。

 先月K産院に関する記事を掲載したあと、同じくK産院で出産したものの死産と言われた夫婦2組からメールをいただいた。また、警察筋からK産院で勤務経験のある看護師が変死体で見つかったという情報も掴んでいる。これらを含め、本紙は今後もK産院を取り巻く怪奇の正体を暴くために全力で取材を続けていく。

 京極夏彦『姑獲鳥の夏』 某大学生協のPOPより
 普通のミステリーに飽きた人にこそ読んでほしい。ミステリーのトリックは読者を納得させなければならない。ではこのトリックはどうだろう。普通に提示されれば間違いなく駄作の烙印を押されていただろう。しかし作品に漂う怪異的な雰囲気がこの突拍子もないトリックに説得力を与えてしまう。
 投稿者 E・Sさん 心理学部4年
posted by 新橋九段 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | CoCシナリオフック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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